お月様になったBaker

2000.5.5

 

1999年11月のある日、嬉しいニュースが留守電に入っていました。


アメリカ・ワシントン州のPINECOON MAINECOONSを訪問中の友人の仲介で、待望のメインクーンのオスの子猫を連れ帰ることができるよ、というもの。

11年前にPINECOONから猫を入れ、それ以来もっとも信頼できる先輩ブリーダー、そして友人としてのつき合いがありました。
彼女の HPにUPされていたブラウン・クラッシック・タビーの男の子、それが私の新しい家族、Bakerでした。
アメリカから猫を入れる場合は早くても半年、長くなると2年以上・・・
希望の子が産まれるのを待って、というのが今までのパターン。
それがこの子猫の場合は話がきて、3日後にはもう私の腕の中!

空港ではじめて対面したBekerは、長旅にも関わらず思いっきり大きくゴロゴロ喉をならして、私の腕の中に飛び込んできてくれました。
本当に、一瞬で恋に落ちてしまった私。

仕事から帰ると、足下にまとわりついて、パソの前に坐ると膝の上を要求し、上目遣いで額や耳の後ろを撫でて、と要求。
夜は私の横に寄り添って眠り、パジャマのボタンを囓り。。。。

たくさんの猫との生活がありましたが、Bakerは特別を十分意識させてくれる愛らしさで、私は彼に夢中でした。
これからBakerの子猫や孫猫に囲まれて、20年も30年もずっと一緒に年を取っていける、そう信じきっていました。


彼は本当に私にとって「特別なネコ」だったのです。

 


2000年5月1日(月)
前日はBakerにとっての2回目のキャットショー。
かなり疲れた様子。ずっと寝ている。でも食欲あり。ウンチもオシッコも正常。
連休中にHPのリニューアルを予定。
みんなの写真を撮りまくる。
baker、昨日のショーでアメリカ人のジャッジさんからいただいた、
ネズミのついたおもちゃが大のお気に入り。
色んなポーズで、素晴らしい表情を撮らせてくれる。

5月2日(火)
今日は出勤。
Baker、よく寝っている。
仕事から帰ると、いつものように甘えん坊さんに戻り私の膝を占領する。

5月3日(水)
連休スタート。でも、ベランダで大家さんが雨漏りの修理。
猫たちは物音に落ち着かない様子。
朝食はいつものように缶詰をペロリ。
ショーでも前回よりリラックスしていたので、これなら28日のショーに連れて行っても大丈夫かな?と出陳表をFAXで送る。
夕方も食欲あり。レイラの皿まで顔を突っ込んで食べている。

5月4日(木)
いつもと変わらないBaker。 夕べも布団の中でゴロゴロの嵐。
何度も布団から出たり入ったりして甘える。
夕食、少し口を食べただけで残す。

いつもの気まぐれ?

深夜2時半、寝ようとBakerを布団に誘う。
抱き上げると嫌がる。
呼吸がおかしい。
どうした?
すぐにうずくまる。
明日の朝一番で祝日でも診てくれる獣医さんを捜さないと!

5月5日(金)
タウンページで1軒、午前中だけ診てくださる、という獣医さんを発見。
Baker、呼吸が荒くなっていて苦しそう。 状態はかなり悪い。肺に水が溜まっている?

10時30分

診察台の乗せたBakerを一目見て、先生はすぐにレントゲンの用意。
レントゲンに写った両肺は真っ白。

「なぜ急に?何が原因で?」

「急にこんな状態になったわけではないでしょうが、飼い主さんが気がつくような状態になったときはかなり症状が進んでいるんですよ。
若くて体力のあるネコはぎりぎりまで症状がでにくいので・・・
胸に水が溜まる病気としては、FIPか?リンパ肉腫か?膿胸か?
検査してみないとわかりません。
でもこのままでも、多分数時間の命。
抗生物質を打っても気休めにしかならないでしょう。
肺に針を刺して、肺に溜まっている物が何か調べてみませんか?
しかし、今の状態では抱き上げて体位を変えるだけでも危険です。
麻酔を使わないと、検査ができません。
この全身状態では麻酔をかけることも大きなリスクになりますが、 どうしますか?」


「検査してください」

FIPであれば、助けることはできない。
リンパ肉腫であれば抗ガン剤を使って延命することができる。
膿胸であれば、洗浄を繰り返し、完治することができる。

Bakerが麻酔に耐えること、そして膿胸であれば・・・ 祈りながら治療を見つめる。
肺からでてきた液体は薄いピンク色の膿。

「良かった!これなら治すことができる!」


両肺から500cc以上の膿を出し、イソジンで洗浄。
それを何度も繰り返し、治療は無事終了。

後は覚醒してくれれば。。。
毎日、膿がでなくなるまでこの治療を続けなければいけないけど、先生の今までの経験では健康に戻れる、とのこと。

しかし5-10分で覚醒するはずが覚めない。
手足、耳が冷たくなってきてかなり体温が下がってきている。
肺の膿を抜いたので呼吸は楽になっているのに。

「Baker、早く起きて、おうちに帰ろうよ」

でもBakerはそのまま起きなかった。
ずっと眠ったまま。。。


4時間後にはだんだん身体が堅くなって、
もうあの甘えたおしゃべりを聞くことができなくなった。

腕の中でどんどん、身体が堅くなっていって冷たくなっていって・・・



今Bakerは小さな白い陶器の壺の中に、信じられないほど小さくなって入っている。
どうしてBakerがいないの?
DUNEやレイラがBakerを探している。
私も探している。
パソの机の下で私を見上げて、早く抱っこしてよ、って
Bakerがいるはずのところに、なぜいないんだろう?

突然やって来て、突然姿を消してしまったBaker。


なんて素晴らしい晴天の美しい5月に、Bakerはどこに消えてしまったの?