注:私は獣医師ではありません。
もし専門の方が読まれて、記述内容の間違いや、不備な点に気付かれたときはときは是非ご指摘お願いします


 
ネコインターフェロン

インターフェロンとは、1954年にウイルスの増殖を抑える効果がある物質として、

長野泰一博士らによって発見されたものです。

 そしてその後の研究でインターフェロンは、動物の身体の中に存在し、

病気に対する自己防衛機能の一つとして重要な働きをしていることがわかりました。

インターフェロンには、

抗ウイルス作用

抗腫瘍作用(坑ガン作用)

免疫系へ作用

の3つの働きがあります。

 またインターフェロンは、1種類だけではなく、色々な型があることも判っています。

抗ウイルス作用とは;

ウイルスは動物の生きた細胞がなければ生きていけない性状をもっています。細菌とも似ていますが、細菌は細胞の外で生きているのにウイルスは細胞の内側まで入り込んでしまうため、抗生物質などがウイルスに効果がないのはそのせいです。細胞の中に入り込んだウイルスは、その中でタンパクを合成し、新しいウイルスを合成して増えていきます。インターフェロンは、細胞のある特定の部分に結合し、細胞の機能の中心である核にシグナルを発信します。このシグナルが発信されると、細胞の中に抗ウイルスタンパク(AVP)がつくられます。このAVPの働きにより、細胞内でのウイルスのタンパク合成が阻害され、ウイルスが抑えられるのです。 このようにインターフェロンの抗ウイルス作用と言うのは、ウイルスを直接殺してしまうのではなく、細胞自体をウイルスが住めないような状態にすることなのです。

抗腫瘍作用とは;

瘍細胞のDNA合成を抑制する働き、腫瘍細胞の分裂を遅らせる働き、腫瘍細胞のタンパク合成を抑える働きの3つの直接作用により、腫瘍を抑えるメカニズムがあります。

免疫系への作用とは;

腫瘍にかかっている動物の免疫系(白血球あるいはリンパ球など)にインターフェロンが働きかけ、これらの細胞を活性化させ、腫瘍細胞をやっつけるのです。

 



今回とても幸いなことにネコインターフェロンを開発、研究されたメンバーの内野富弥先生にお話しを伺うことができ、ネコインターフェロンの開発についてお聞かせいただきました。

 まず、なぜ猫のインターフェロンを開発してみよう、と思われたのですか?とお尋ねしたところ

◆猫にはワクチンの開発されていない、ウイルス性の疾患が多くあること。
◆猫は多頭飼育される場合が多く、その場合ウイルス性の疾患発症率が高いこと。
◆ワクチンはありますが、そのウイルスの性質上完璧には、ワクチンの効果が出ないカリシウイルス(ネコカリシウイルス感染症)とインターフェロンの相性が良く、実験で 扱いやすかったためだそうです。(結構伺ってみると簡単な理由だったのですが、そのお陰で、猫たちにはとても助かるお薬を開発していただけたのですから、ラッキーなことです。)


*[簡単に、なぜワクチンがあるのに、カリシ、ヘルペスなどのネコカゼは発症してしまうかと、いうと、人間のインフルエンザには今年はホンコンA型、去年はスペインB型というような色々な形がありその年によって流行の型が違うのと同じで、ネコカゼウイルスも色々な形に変化して、ワクチンが有効に効き目を発揮できないことがあるからです。
例えば抗体(ワクチン接種による)が凹型であって、ウイルスが凸型であれば、有効にガードでき発症しませんが、抗体が凹型でも、ウイルスがΔではかみ合わず発症してしまいます。ならばワクチンなぞ打つ必要がないのでは、と思われるかも知れませんが、ワクチンを打っておくことにより症状はうんと軽くて済ませることができるのです。]


 

内野先生の一番新しいインターフェロンについての研究発表によると、『当初治療量としては2.5〜5.0MU/Kgであったが、使用例回数が多くなるに従って1回使用量が減少しても、効果が変わらないために、徐々に1回使用量は減少してきた』とあります。
(ネコインターフェロンの使用量や使用回数は治療に当たる獣医さんが、その時の患猫さんの症状によって判断するので、一定ではありません。当然診察料も患猫さんの状態によって、まちまちになるわけです。)
『さらにウイルス感染症の治療効果は病勢度からみると、劇的な効果がネコインターフェロンで見られるのは、感染初期であることが明確になってきた。』とあります。
実際にこの研究報告の中では、初期、又は予防として使われた方が効果が高かったと報告されています。

予防効果についてインターフェロンを、少し専門的な言葉を交えて書いてみますと…
まずサイトカインという、ウイルスなどの侵入に対して身体の免疫効果を高め、身体の恒常性を保っている微量物質、簡単に言えば身体の防衛ラインのような存在があります。サイトカインはほとんどすべての細胞から量産され、生体のホメオスターシス(身体をいつも安定状態に保たせる、抵抗力を維持する)に働きます。
この仕組みをサイトカインネットワークといいます。もしこのネットワークが崩れるようなことがあれば、症状は進み、様々な病態が起こって来ます。また反対にこのネットワーをうまく働かせることによって、様々な疾患の治療も可能になるのです。

インターフェロンはこのネットワークに働きかけ、免疫を活性化させます。ウイルス感染が起こると、まず感染した動物の細胞から量産されます。そうです。インターフェロンは自分の身体の中にもあるのです。(内因性インターフェロン)量産されたインターフェロンはサイトカインネットワークに働くと同時に、ウイルス感染細胞のインターフェロンレセプター(細胞の受容体、細胞の中には手と手を握手するようにくっついて結び付くことにより効果をあらわす)について、AVP(抗ウイルスタンパク)を活性化させ、ウイルスの増殖を抑制します。しかし、ウイルス感染量が多い場合は、インターフェロンも多くないとウイルス抑制が困難となり、内因性インターフェロンでの抑制は限界を越えて発症してしまいます。
そこで、外部から大量のインターフェロンを(外因性インターフェロン)投与して、治療しようとするのがインターフェロン療法です。

インターフェロンにはこのように抗ウイルス作用と、免疫担当細胞を活性化する働きがあり、ホメオスターシスを補強し、発症しないように働きます。

しかしこの働きは、サイトカインネットワークが障害されてしまってからでは有効に働けなくなります。インターフェロンも症状が出現してからでは、ホメオスターシスを補強することが困難になり、有効なインターフェロン療法になりません。インターフェロンはサイトカインネットワークの障害の程度が少ないか、障害されない時期に投与された方が効果が上がると言うことです。
 よって、ウイルスに対するインターフェロン療法は初期、あるいは予防的投与が有効な方法となるわけです。



さて、ネコインターフェロンは投与後どの くらいで効果が現れるのでしょうか。
ネコインターフェロンは投与後約15分ほどで体の外に出てしまいます。それまでにレセプターにうまく着地できればよいのです。現在ネコインターフェロンの効果を定量的に判断した実験結果によると、どのくらい効果が持続できるかは明確ではないが、約6時間目から効果が現れ、1回投与により、5〜6日は抗ウイルス作用を発揮する可能性が考えられています。これは様々な実験結果からも裏付けられ、ネコインターフェロンは治療よりも予防効果に使用した方がより効果的に働く可能性があります。

 
例えば、ウイルスに汚染されているかもしれない場所、不特定多数の猫がたくさん集まる場所などに、愛猫を連れて行かなければならない場合、その前日にネコインターフェロンを投与することによって、猫の免疫力を高めておいてウイルスによる感染症を事前に防ぐことが可能かもしれないのです。
しかし24時間以上汚染場所にさらされてしまうと、その後ネコインターフェロンを投与されても既に手遅れになってしまうケースや、症状が悪化してしまう例もあります。



 

また、ネコインターフェロンとワクチンの同時投与に関しての実験(ネコパルボに対して健康なグループ、初期症状が見られたグループ、完全に発症しているグループ)では、健康な猫であれば、発症予防に有効な方法であると判定されたが、既に何らかのウイルスの初期症状を伴った場合は、同時投与しても、半数が症状進行し、1例死亡もありました。 このときワクチン接種のみでも、発症が見られました。
汚染場所で猫にまだ何ら症状のない時期には、このダブル投与が発症予防に有効な手段として考えられます。

『ネコインターフェロンは、ウイルス疾患関しては、
感染初期に投与されることがより有効な使用法である。
また、感染汚染地域への動物の導入時には、
導入前24時間以内 ワクチンとネコインターフェロンの
同時投与は有効な予防法である。』
と内野先生の報告はまとめられています。

少し高価だと思われる薬だけに、飼い主さんも賢くなって、

愛猫の苦痛を少しでも軽くしてやれるようにしたいものです。

ネコインターフェロンは「インターキャット」と言う商品名で、
製造元 東レ株式会社、販売元 共立商事株式会社から発売されています。

まれに、軽い発熱、嘔吐などの副作用がみられることがあります。

劇薬扱いの要指示医療品で、獣医さんの処に方が必要な薬ですので、
治療に当たっては獣医さんの指示を確実に守ってください。

 

参考資料;共立商事株式会社 ネコインターフェロンってなーに?
獣医畜産新報 Vol.48 No.8 1995年8月号 特集;犬と猫の予防治療を考える
ネコインターフェロンのウイルス予防における将来性/内野 富弥


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